全難聴 情報文化部

 【行政等への要望】
 2011年7月15日 文化庁長官あて  「日本の文化芸術のバリアフリー化要望」を提出
           

 全難聴発第11−045号
2011年7月15日

文化庁 長官 近藤 誠一 様
(社)全日本難聴者・中途失聴者団体連合会
理事長 高岡 正
日本の文化芸術のバリアフリー化要望

時下、ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。

平素は私たち難聴者の福祉向上について、ご理解ご高配いただき、誠にありがとうございます。
難聴者人口は日本全人口の15%(参考資料1)にも達しています。 現在、社会で放映又は配信されている映像や音声による各種メディア等は、 デジタルテレビを除き、難聴者のための字幕付与等の配慮・設備がないものが殆どで、 私達は見ても理解できません。  
そのため、当会は障害者権利条約の理念の観点(参考資料2、3参照)からテレビの字幕放送の拡充や著作権、 病院、駅等、社会のあらゆる施設において発生する音声を文字表示するバリアフリー問題を取り組んできました。

この障害者権利条約を日本国で批准するために、平成22年度から内閣府に設置された、 障がい者制度改革推進会議に当会代表も委員として参加し、日常生活、社会生活に関係する制度改善に力を尽し、 逐次具体的な問題を働き掛けております。

今回の上記表題の要望は貴庁の文化芸術振興基本法の第二十一条(国民の鑑賞等の機会の充実) 「国は,広く国民が自主的に文化芸術を鑑賞し,これに参加し,又はこれを創造する機会の充実を図るため, 各地域における文化芸術の公演,展示等への支援,これらに関する情報の提供その他の必要な施策を講ずるものとする。」に基づき、 国内で行われる文化芸術に関する各種イベントへの情報保障について、以下のように要望するものであります。
  1. 洋画には日本語の字幕がついていますが、日本映画には特別なものの他、殆ど日本語字幕は付きません。 近年、日本映画の全作品中、字幕版が作られた割合は約10%です。これは映画館上映が10%ではありません。 上映時間も限られ、地方の映画館では殆ど0%です。(DVDの字幕率:参考資料4) 日本映画は日本人にとって、 身近な日常生活場面が多く、社会で人間関係の構築が障害となっている難聴者にとって、 通常の人間関係の会話を字幕付与により楽しみながら学習できる場となります。 一方NHK及び在京キー局の総放送時間に占める字幕放送時間の割合はやっと平均50%弱まで到達しました。 徐々に字幕番組が増えています。これは総務省の放送番組への字幕付与の制作費助成制度があるからです。 日本映画にも字幕付与映画の字幕率向上のため、制作費助成制度を設けて下さい。
  2. 日本の伝統舞台鑑賞および各種演劇に対する聞えない者への配慮は皆無と言えます。 一口に難聴者と言っても聞え方は千差万別で、適切な補聴援助システムを使用することにより、 音そのものを理解できる者から全く聞えない者までおります。 芸術的雰囲気を備えた各種劇場のような場合、 芸術的環境を壊すことなく、音声を利用できる補聴援助システムとバーチャル・リアリティ等の 情報通信技術を使った字幕表示システムを総合的に構成し、難聴者が普通の人と一緒に理解できる 情報保障システムの開発・設備化をして、舞台芸術の鑑賞が出来るようにして下さい。
  3. 国際文化フォーラム、国際映画祭、種々の芸術祭に関係する講演会、フォーラム、 座談会など文化芸術に関係する多くの話のイベントが催されますが、殆どの場合、話の文字表示や字幕がなく、 理解できません。文化芸術について、少しでも理解が進むように話の文字表示、 字幕等を付与するように関係資料(参考資料5)を参考にして、イベント実施要領等で規定化して下さい。
  
  参考資料
  1. 難聴者人口が日本全人口の15%(参考資料1)にも達しているという根拠資料以下の通り。
  国内での補聴器普及の現状
日本国内ではいまだ、補聴器の潜在ユーザー(難聴者)のうち、補聴器の所有者割合はわずか24.1%に過ぎません。これは、難聴者の4人に1人しか補聴器を使用していないことを表します。
「補聴器供給システムの在り方に関する研究」2年次報告書より。
(調査期間:2003-2-20〜2003-3-10)

補聴器ユーザー&潜在ユーザー(千人)

人口(千人)

人口比

自覚のない補聴器潜在ユーザー数

9,070

125,950

7.2%

自覚のある補聴器潜在ユーザー数

5,690

125,950

4.5%

殆ど使用しない補聴器所有者数

1,290

125,950

1.0%

常時、または随時使用補聴器所有者数

3,390

125,950

2.7%

合計

19,440

125,950

15.4%

  上記表掲載の日本補聴器工業会のURLは以下の通り。
http://www.hochouki.com/academy/news/program/index.html
  
  1. 国連総会における「障害者権利条約」の採択
2006 年12 月13 日に開かれた第61 回国連総会において、「障害者権利条約」が採択され、現在日本は条約批准検討中です。
障害者権利条約が批准された場合、日本の法体系の中で、日本国憲法の下に位置し、国内法全般に反映させる必要があります。
条約第30条には、「文化的な生活、レクリエーション、余暇及びスポーツへの参加」とあり、下記の内容が記述されています。

第三十条 文化的な生活、レクリエーション、余暇及びスポーツへの参加
1 締約国は、障害者が他の者と平等に文化的な生活に参加する権利を認めるものとし、障害者が次のことを行うことを確保するためのすべての適当な措置をとる。
  1. 利用可能な様式を通じて、文化的な作品を享受すること。
  2. 利用可能な様式を通じて、テレビジョン番組、映画、演劇その他の文化的な活動を享受すること。
その他、関連規定事項は以下の通り。
第九条「施設及びサービスの利用可能性」、アクセシビリティのことである。この中で、「情報通信(情報通信技術及び情報通信システムを含む。)並びに公衆に開放され、又は提供される他の施設及びサービスを利用することができることを確保するための適当な措置をとる」というふうに書いているが、その下のほうに(g)と(h)、(h)では「情報通信技術及び情報通信システムを最小限の費用で利用可能とするため、早い段階で利用可能な情報通信技術及び情報通信システムの設定、開発、生産及び分配を促進すること」とある。

第二十一条「表現及び意見の自由並びに情報の利用」では、
  1. 障害者に対し、様々な種類の障害に相応した利用可能な様式及び技術により、適時に、かつ追加の費用を伴わず、一般公衆向けの情報を提供すること。
  2. 公的な活動において、手話、点字、補助的及び代替的な意思疎通並びに障害者が自ら選択する他のすべての利用可能な意思疎通の手段、形態及び様式を用いることを受け入れ、及び容易にすること。
  1. 日本又は世界での各種アクセシビティ規定にも映像等が理解できるように音声の字幕化を謳っている。
総務省及び経済産業省共催で定めている各種アクセシビリティ規定はJIS化又は国際規定化され現在に至っている。全難聴はこれら一連の規格策定に参加している。
規定においてはいずれも、情報通信機器が提供するサービスを享受できることが謳われ、映像には字幕付与が記述され、特にその内、第四部:電気通信機器は国際規定としてITU(国際電気通信連合:ジュネーブ)へ提案されITU発効の国際規定になっている。(その他、下記(1)、(2)が国際規定化)その中には音声を可能な限り文字化(電話リレーサービス)することが明確に謳われている。日本において過去発行されているアクセシビティ規定類は以下の通り。
  1. JIS Z8071 ガイド71「高齢者及び障害のある人々のニーズに対応した規格作成配慮指針」
  2. JISX8341-1「高齢者・障害者等配慮設計指針−情報通信における機器・ソフトウェア及びサービス第一部:共通指針」
  3. JISX8341-2 第二部:情報処理機器
  4. JISX8341-3 第三部:ウェブコンテンツ
  5. JISX8341-4 第四部:電気通信機器

  1. 過去の映像ソフトの字幕率
 現在までに日本で制作した映画等の映像ソフトは2006.12の日本図書館協会調べで、
VHSの全タイトルは20,956タイトルで、その内字幕付与は139タイトル(.66%)
DVDの全タイトルは約14,000タイトルで、その内字幕付与は約1,000タイトル(7.1%)
DVDで若干増えているものの、こと日本映画映像ソフトの分野では聴覚障害者はその視聴を殆ど無視されているといって過言ではありません。
  1. 財団法人共用品推進機構主催の「より多くの人が参加しやすい展示会ガイド」の検討委員会が開催され、 全難聴の役員も参加して、展示会へ障害を持つ参加者に対するさまざまな場面での視覚情報、音声情報の配慮方法についてその概要が記載されている。
「より多くの人が参加しやすい展示会ガイド」提示のURLは以下の通り。
http://www.kyoyohin.org/03_download/pdf/TENJIKAI.pdf

  
以上
  



 
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